Samが特命教授を務めている熊本高等専門学校では、KOSEN-ATの活動の一環として、地域の障害者・児のe-AT活用をサポートするという社会実装に取り組んでいます。
そのうちの一つとして、熊本県内の特別支援学校向けに在籍する児童生徒の学習活動におけるe-AT活用に関するサポートをしています。
2022年9月9日(金曜日)は、熊本県立C特別支援学校からの依頼で視線入力に関するコンサルテーションに行ってきました。
今日のブログ記事は、その時の備忘録です。

昨年度(=2021年度)中に、熊本県教育委員会は熊本県立の肢体不自由および病弱の特別支援学校にTobii Dynavox社の視線追跡装置PCEye 5を1台ずつ配備しました。
しかしながら、PCEye 5が使える学習者用Windowsパソコンや視線マウスアプリは配備されていませんので、各学校では、学習者用Windowsパソコンや視線マウスアプリの工面に困っておられるそうです。
そこで、C特別支援学校では、職員に配備されている校務用 Windows10ノートパソコンを使っておられるのですが、その校務用パソコンは起動そのものに時間がかかる(電源スイッチをONにしてから5〜10分経過しないと Windowsが起動しない)上に、入力練習用アプリEyeMoTシリーズの起動に時間がかかる状況とのこと。
また、EyeMoTシリーズが起動しても正常に機能しないことが多く、対象児(=小学部2年生児童S君)がその状況を待てずに学習への意欲が低下しつつあるという状況でした。

そんな折、学校長が社会福祉法人 日本肢体不自由児協会主催の肢体不自由のある子どものWindowsとiPadOS活用講習会の募集案内を見つけて、S君を担当しているO教諭に参加するよう伝えたそうです。
同講習会の際、O教諭がSamに現況を相談してこられたことが、今回のコンサルテーションのきっかけです。
学校長から熊本高等専門学校の担当教授に電話で訪問支援によるコンサルテーションを依頼してもらうようO教諭に伝えたところ、C特別支援学校の教頭から正式な依頼があり、双方でスケジュールを調整して9月9日(金曜日)に訪問する運びとなりました。
※当初は9月5日(月曜日)に訪問する予定でしたが、台風11号の接近に伴い、C特別支援学校が急行になったため9月9日(金曜日)に延期されました。

C特別支援学校に到着すると、S君が教室で待っていてくれました。
「S君は、日常的に聞く言葉のいくつかは理解しているようで、YES/NO の表現は表情の変化や発声で知らせてくれます。床に寝た状態で、近くに置いたステップバイステップwithレベルの表面スイッチに入 力して「先生、来てください」という録音音声を出力して教員を呼ぶことができます。ステップバイステップwithレベルの表面スイッチのように押すタイプのアクセシビリティスイッチへの入力やiPadへの画面タップはできるのですが、対象に手を伸ばすことに労力と時間がかかり汗だくになって疲れてしまうため現実的ではないと思っています。2枚の文字カードを提示して、「◯◯の字はどっち?」という学習をやってみたところ、いくつかの文字は理解しているようなので、視線入力で文字を選んで綴れるようにならないかと思って試しています。」と説明してくれたO教諭が、視線入力に必要な機器類をテキパキとセッティングして学習がスタート。
EyeMoT 3D GAME_05「射的」を起動!
ところが、起動画面が表示されるまでに10分ほど時間がかかってしまうという状況にビックリ!
その待ち時間中に自己紹介し合って、時間をつぶしたほどです。
こちらから対象児に「YESまたは NOで答えられる」質問をすると表情の変化&発声(= YESの時)で答えてくれました。
そうこうしているうちにEyeMoT 3D GAME_05「射的」の起動画面が表示されたので、学習開始!
02射的ゲームで文字の学習
S君は一生懸命にターゲットを見ようとするのですが、アテトーゼ型脳性まひによる四肢体幹機能障害があり、筋緊張の亢進および不随意運動の出現が顕著なため、視線が思うように定まらないようで、3 問目の課題になった時に顔をしかめてしまいました。
キャリブレーションを調整するためのアプリGaze Pointが見当たらなかったので、いったん文字の学習は中止して、キャリブレーションがアバウトな状態でも楽しめるアプリEyeMoT Sensoryを持参したSSDからインストールして試してもらうことにしました。
03EyeMoT Sensoryで注視する力の向上
表示された画面を見るなり視線を動かして反応するアプリのルールをすぐに理解して、S君は次々と入力できました。
すると、さっきまで反り返るように亢進していた筋緊張が弛緩してきて、吹き出していた汗もおさまってきました。
「他にも(ゲームが)あるからやってみる?」と誘ってみるとS君は「う〜」と発声して答えてくれました。
仕掛け人の学校長も来られて見守る中、注視から追視の課題に取り組めるコンテンツに挑戦してくれました。
04EyeMoT Sensoryで追視する力の向上
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右から二人目の白色カーディガンが学校長

固定具や視線追跡装置は問題ないのですが、それを機能させるためのWindowsパソコンをスペックの高い機種にすると解決しそうな相談でした。
学校長が熊本県教育委員会に働きかけるとのことなので、その結果を待って次回のコンサルテーションに伺いたいものです。