2018年5月25日の参院本会議において、タブレット端末などで利用できる「デジタル教科書」を正式な教科書と同様に使えるよう認める改正学校教育法が全会一致で可決、成立しました。
日本経済新聞によると、文部科学省は、小学校で新学習指導要領が全面実施される2020年度以降、本格普及させたいそうです。
法の施行は2019(平成31)年4月1日です。
つまり、来年の4月なんですね。

現行法では、授業で使う教科書は紙の教科書でなければならないと定めてあり、デジタル版は副教材としての扱いでした。
紙の教科書を否定するつもりはありませんが、肢体不自由のために手指を微細に動かすことが困難な子どもたちや、ディスレクシアのために文字を読むことが困難な子どもたちや、視覚障害のために文字を判読しづらかった子どもたちにとって、教科書がデジタル化されれば読みやすくなる子どもたちが増えるものと思われます。

これまでにも、(公財)日本障害者リハビリテーション協会DAISY研究センターマルチメディアDAISY教科書を提供したり、Access Reading事務局がEPUBファイル形式やWordファイル形式で教科書データを提供する、といった教科書のデジタル化サービスがありました。

現任校でも、肢体不自由のために教科書のページめくりができない子どもたちに、マルチメディアDAISY教科書やEPUBファイル形式の教科書データをiPadにダウンロードして使ってもらっています。
教科によっては、図表の拡大が必要な場合がありますので、Wordファイル形式の教科書データをパソコンにダウンロードした上でPDF化してiPadに転送して使っているケースもあります。
デジタル化した教科書をiPad使っている生徒
マルチメディアDAISY教科書にしてもEPUBファイル形式やPDFファイル形式にしても、学校や個人で申請してデータを情報端末機器にダウンロードして使う仕様になっています。

特別支援学校では、そういう電子データをタブレットなどの情報端末機器に保存して使うことは、半ば当たり前(ページがめくれないから、読むべき場所がわからないから、図と地の判読がしづらいから、など)に受け入れられるのですが、通常の学級に在籍している「読み書きに困難さのある障害児」にとって、授業中に自分だけタブレットなどを使うのはとても勇気のいることです。

Samは特別支援学校のセンター的機能の一環として、通常の学級に在籍する「読み書きに困難さのある子ども」の支援についての相談を受けて小中学校にお邪魔することがあります。
相談者である担任教師や該当児童生徒に、デジタル化した教科書データを保存したiPadを試してもらうと、「これなら文字が読める」と言われる子どもさんが多いのですが、「iPadを学校で準備できない」「iPadはあるけれど(インターネットに繋がるWi-Fi環境が無いので)データのダウンロードができない」「周りの子に理解してもらうのが難しい」「クラスメイトの保護者に説明できない」「(中学校の場合)教科担当教師の理解が得られない」といった残念な言葉を投げかけられる場合がほとんどです。
その横で小さくなっている子どもの姿が悲しくてたまりません。

クラスメイトへの説明、担当教師の理解、情報端末機器や教科書データのダウンロードを誰が準備するか...などの高いハードルがあるのが現状ではないでしょうか。
そういう現状だからこそ、今回の学校教育法改正に期待したいと思います。

ただし、新聞記事の最後には「小中学校の紙の教科書は無償だが、デジタル版は無償としないため、自治体の方針によっては、保護者の費用負担が生じる可能性もある。」と結んであります。
法は整備されたとしても、それを実現するためには財源の確保など課題があると思われます。

今後の動向に注目していきたいものです。